山猫島

we didn't mean to go to sea.

防災訓練のヘルメット

初めてかぶったらぶかぶかだった。午後から雨が降り始めたので、避難訓練が中止されるかと、研究室一同期待したのだけど、結局予定時刻を五分ほど過ぎたところでサイレンが鳴った。
小雨がぱらぱらと降りかかるなか、のろのろと集合場所に向かう。その場には思いのほか大きな人の輪が出来ていたが、10棟の建物に収容される人員が集まっていることを考えてみれば、矢張り少ないぐらいなのだろう。
人々の背の向こう側で進行していく訓練のほとんどは私には見えなかった。いつの間にか訓練が終わり、解散が宣言されたあと、広場に残ったオレンジ色の煙ハウスに一部の人々が吸い込まれていった。
同じ研究室のクチさんとキノさんの二人とともに、私もそのバニラの匂いをつけられた煙の中に入ってみた。時折、煙の向こうにうっすらと人の影が横切る。天幕のオレンジをかすかに感じさせる白い煙で視界は覆われ、自分の姿もよく把握できない状態に、不安やかすかな焦りとともに不思議な安堵、充足感があった。真直ぐ、不意に体に当るポールや幕を気にせず突っ切っていくと、あっと言う間に外へ出た。
外を、ただただ白く明るい場所をオレンジ色に翳った煙の中に見出したとき、ヘルメットをかざして突っ込んだのは、不安から逃げるためだったのだろう。あの白い閉ざされた空間に何時までも居たいと想ってしまいそうな不安から。