山猫島

we didn't mean to go to sea.

山また山

たった300mばっかし上っただけなのに、眼下にはただただ緑の頂が連なっていて。すこし向こうを望めば東京湾が、いくつかの船を抱いて、まるで大陸にあるという大河の河口のような態。日は暖かく、冷たい山の空気とのコントラストが浮遊感。
今年の最後を望んで、フィールドに出て行けてよかった。煮詰まりに煮詰まった状態にあって、1時間近くの遅刻をしでかすというありえない迷惑を掛けてしまったけれど。やっぱりフィールドに出るのを諦めなくて良かった。
今回は特に何をしたわけでもなく、当初の目的ニホンザル観察が初日にかなりできてしまったため、今日はほぼただのハイキングと化していた。一応名目上雄の一匹猿なんかを探すことや、鳥を観察するということも。しかしかなり距離を移動したわりには特に痕跡以上のものを見出すことは無かった。
山道を歩きながら、ひたすらに夏の屋久島を反芻していた。落ち着いた雰囲気を保って、静かに佇む目の前の森と、あの煩いほどに生命力を湛えた鮮やかな夏の亜熱帯を。あの只管に自然と向き合って、フィールドワークをとことん突き詰めた一週間と、山に入ってうろうろして観察して楽しむこの一泊二日と。あのスコールのような雨のなか、全身汗か雨か泥か判然としない状態で木の根を伝いながら崖をよじ登った夏の日は、落ち葉にうずもれている山道を木漏れ日を感じながら歩く冬の日に、幾度も幾度も湧いてくる。